曼陀羅に描かれる神々や崇拝の対象となる神像は、日本では如来、菩薩、明王、天、などの尊称で呼ばていれますが、ネパールでは全て神様として信仰されています。ここではチャリヤダンスで踊られる主な神々の特徴や、その象徴的な意味を簡単に解説します。

   まんじゅしりぼさつ
マンジュシュリ
■ 文殊師利菩薩 Manjusri

「輝ける智慧の神」と呼ばれるマンジュシュリは、帰依者に完全な精神と優れた記憶力、そして雄弁さを授ける神として信仰されています。マンジュシュリの古い伝説によれば、 昔、カトマンドゥ盆地は湖に覆われていたが、ある一人の聖者が湖を訪れた時に投げ入れた蓮の種がやがて湖の真ん中に花開き、その蓮の花の上に青い炎で輝くスワヤンブー(自ら生まれるもの)と言う名の像があらわれ、後にその湖を訪れたマンジュシュリがその像を見つけ、そして湖の南側の山を剣で切り開いた。湖の水は南へと流れ、干上がった地面がカトマンドゥ盆地になった、と言う話です。マンジュシュリは、文殊妙音(マンジュゴーサ)や文殊童子(マンジュクマール)という別称でも呼ばれ、右手は煩悩を断ち切る利剣を、左手は智慧を象徴する経典をもつ姿で表されます。

 

   かんじざいぼさつ  
アヴァロキテシュワラ
■ 観自在菩薩 Avalokitesvara

菩薩とは「悟りを求める者」または「悟りに達した者」の意味を持ちますが、それは自己中心の修行者のことではなく、慈悲行を実践し一切の衆生を救済する者のことで、超人間ともいえる神に到達した人のことを言います。菩薩達の中でもアヴァロキテシュヴァラは人々を悟りへ導くために様々な姿で世界の何処にでも出現するので、観自在と呼ばれています。観自在菩薩は百八の姿に変化し一定の姿をとりませんが、チャリヤダンスで主に演じられるのは、別称ロケショールともいって、その姿は左手に青蓮華、右手は「恐れを取り除く」アバヤムドラ(施無畏印)を結びます。また、彼は阿弥陀如来の姿を象った宝冠を戴いています。

   じせぼさつ
ヴァスンダラー
■ 持世菩薩 Vasundhara

ヴァスンダラーの「ヴァス」は土や大地という意味で、「その中に全てが存在する」とも理解できる言葉です。そして「ダラー」は「持っている」と言う意味なので、「地球全てを保持する者」として崇められています。地球を保持する女神なので持世菩薩と訳されたのでしょう。富と豊穣の象徴として信仰されるこの女神は、三面六臂の姿でもよく見かけられますが、チャリヤダンスのなかでは一面二臂で、左の手のひらには財宝を意味する金の水瓶をのせ、右手は「願いを叶え、利益を与える」ヴァラダームドラ(与願印)を結ぶ姿で踊られます。ヴァスンダラーは地球の色を意味する黄色い姿の美しい女神です。

   せいたらぼさつ
アーリヤ ターラ
■ 聖多羅菩薩 Arya Tar

アーリアターラーは慈悲を象徴する女神です。「ターラー」という語は、もともと河などを「渡る」と言う意味で、この女神は「苦界の海を渡らせ給う聖なる方」すなわち輪廻から解放し、不生不滅へ導く女神として信仰されています。彼女は不空成就如来の明妃で、彼との合体を描いた像や曼陀羅もしばしば見かけられます。これはシャクティという性的エネルギーを表すもので、「女神は男神の力の根源である」と理解します。このようにタントラ仏教の神々はそれぞれの配偶者を持っています。多羅菩薩も衆生救済のために様々な姿に変化しますが、チャリヤダンスでは、左手に「純粋無垢な智」のシンボルである青蓮華を持ち、右手はヴァラダームドラ(与願印)を結ぶ姿で演じられています。アーリアターラーは緑色の女神です。

   こんごうゆがにょ
ヴァジュラヨーギニ
■ 金剛瑜伽女 Vajrayogini

ヴァジュラは金剛と訳されますが、法具として使用される金剛杵のこともいいます。ヴァジュラという語の意味は「決して壊れないもの」で、ダイヤモンドのこともヴァジュラと言います。また、深い意味では「方便」であり、これは男性原理を象徴するものです。ヴァジュラヨーギニーは到達された女性ヨーガ行者のことで、多羅菩薩の忿怒形の女神であるとも言われます。彼女はヨーガにおける成功と達成を象徴する女神で、シャクティ(女性エネルギー)の権化として崇拝されています。また、彼女はヴァジュラバーラーヒー(金剛猪女)という別の姿でもよく知られています。ヴァジュラヨーギニーは赤い色をしていて、右手に煩悩を断ち切る曲刀(カルティナ)、左の手のひらには成就をあらわす頭蓋骨杯(カッパラ)をのせています。彼女の胴体には知識をあらわす人間の頭蓋骨の首飾りが飾られています。

  だいしょうかんぎてん
ガネーシャ
■ 大聖観喜天 Ganesha

象の頭をもつガネーシャは、ヒマラヤに住むシヴァ神とパールヴァティ女神との間に生まれた息子として有名です。もともと人間の姿だったガネーシャは、あるいきさつで象の頭に変えられてしまいました。この話はヒンドゥー神話のなかでよく語られています。しかしガネーシャは仏教曼陀羅の神々を守る護法神としてバジュラヤーナのなかでも信仰され
ています。あらゆる障害を除去し、智慧と成功を与える守り神であるガネーシャは、この世界の王者でもあります。小柄でふっくらとした体つきをしていますが恐ろしく強大な力
で邪悪を消滅させます。また、他のどの神よりもまず始めに礼拝しなければならないのがガネーシャだといわれているので、踊りを始める前のマントラはいつもガネーシャへ唱えます。それぞれの神の舞いをおこなう時も第一番目に踊るのはガネーシャの舞いです。